私たちが「おいしい」と感じるとき、舌の上では気分ではなく化学反応が起きています。
食べ物に含まれる特定の分子が唾液に溶け、味蕾(みらい)にある受容体を刺激し、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味として脳に届きます。
さらに、辛味やしびれのように厳密には味覚というより痛覚の刺激が加わって、食体験は立体的になります。
この記事を読むことで、成分で味を捉えると同じ甘いでも砂糖と果物では質が違う理由、同じ酸っぱいでもレモンとヨーグルトで印象が違う理由、そしてうま味を足したつもりが逆にぼやける理由まで説明できるようになります。
甘味
甘味は、基本的に糖によって生まれます。代表格はスクロース(ショ糖)が主成分の砂糖ですが、化学的にはいくつかの分類があります。
単糖
単糖は糖の最小単位で、口に入れた瞬間の甘味の立ち上がりが速いのが特徴です。
料理の甘味がスッと出てスッと引くと感じる場合、単糖主体の構成になっています。
単糖には、以下のものがあります。
- フルクトース(果糖):蜂蜜や果実に存在します。甘味の程度は173。
- グルコース(ブドウ糖):甘味の程度は74。
- ガラクトース:甘味の程度は32。
※甘味の程度は、スクロース(ショ糖)を100としたときを基準にしています。
二糖
二糖は単糖が2つ結合したもので、加熱や酸の条件で分解が進むと甘味の出方が変わります。
二糖には、以下のものがあります。
- スクロース(ショ糖)→フルクトースとグルコース:砂糖の主成分。甘味の程度は100。
- マルトース(麦芽糖)→グルコースとグルコース:麦芽にある。甘味の程度は33。
- ラクトース(乳糖)→ガラクトースとグルコース:牛乳にある。甘味の程度は16。
ノンカロリーシュガー
ノンカロリーシュガーは、甘味の刺激だけを設計した化合物です。
甘味の立ち上がりが鋭かったり、後味に独特の余韻が残ることもあります。
料理のコツ:
- 甘味は単独で足すより、塩味や酸味で輪郭を作ると甘ったるさが減ります。
- 温度が低いと甘味は感じにくくなるため、冷たいデザートでは甘味設計が強めになります。
塩味
塩味は少量で料理全体の味を引き締め、甘味を強く感じさせたり、苦味を抑えます。
代表成分は塩化ナトリウムですが、その他の無機塩類も合わさることによって複雑な塩味が完成します。
料理のコツ:
- 塩味は温度が高いと感じやすく、冷めると弱く感じる。
酸味
酸味は食欲を刺激し、脂を軽くし、味を締めます。
同じ酸味でも、酸の種類によって鋭さや後味、香りの立ち方が変わります。
酢酸
酢酸は食酢の主成分です。
酸味だけでなく、鼻に抜ける揮発性の香りが味の印象を支配します。
乳酸
乳酸はヨーグルトなどの乳製品・漬物・日本酒のもつまろい酸の象徴です。
尖らず丸く、食品と一体化して感じやすいです。
クエン酸
クエン酸は梅干しやレモン・オレンジなどにあり、唾液を出させるタイプの酸です。
クエン酸のドリンクは爽快感がありますね。
酒石酸
酒石酸はブドウやワインで知られています。
この酸には芯があり、飲み物に骨格を与えることができます。
リンゴ酸
リンゴ酸はその名の通りリンゴに含まれています。
果実由来のジューシーさを感じやすい酸です。
コハク酸
コハク酸は酸味がある一方で、うま味も併せ持つ不思議な存在です。
貝類などに存在しています。
アスコルビン酸
アスコルビン酸は、ビタミンCとして有名です。
酸味としてもはたらきますが、食品の色や香りの変化(酸化)を抑える目的でも扱われます。
料理のコツ:
- 酸味(特に酢酸)は早めに入れると角が取れてまろやかに、最後に入れると香りが生きます。
- 脂の多い料理は、酢酸やクエン酸を使うと食べ疲れしにくいです。
苦味
苦味をもつ食材は、自身が危険なものである警告として進化したとも言われます。
一方で苦味があるからこそ香りが締まり、余韻が長くなります。
カフェイン
カフェインは覚醒のイメージが強いですが、味としても苦味の構成要素になります。
酸味や焙煎香と組み合わさって、コーヒーの立体感を作ります。
テオブロミン
テオブロミンはカカオ由来で、チョコのほろ苦さの一部を担います。
甘味と同居しやすく、苦味を上品な余韻に変換してくれる存在です。
カテキン
緑茶でおなじみのカテキン。
ここで重要なのは、苦味だけでなく渋みも生むこと。
渋みは味というよりも触覚に近い要素で、後述のしびれと同じく、味覚体験を拡張します。
リモニン・ナリンジン
柑橘類の皮や白いワタ部分に由来する苦味として、リモニン、ナリンジンが知られています。
果汁の爽やかさの裏に、わずかな苦味があることで飲み飽きない味になります。
料理のコツ:
- 苦味は甘味や脂肪分と相性が良く、まとまります(コーヒー+ミルク、チョコ+バター)。
- リモニンとナリンジンは、香りとセットで高級感を演出する反面、主張しすぎると薬っぽく感じます。
うま味
うま味は、日本の食文化が世界に誇る概念ですが、成分としても比較的はっきりしています。
それぞれアミノ酸系・核酸系、文脈によっては有機酸系に大別できます。
アミノ酸系
代表的なものとして、グルタミン酸があります。
昆布やトマト、チーズに多いとされ、舌に”出汁の土台”を敷くようなはたらきをします。
グルタミン酸は単体でもうま味ですが、真価は次の核酸系と組み合わさったときに発揮されます。
核酸系
肉類や鰹節・煮干しに含まれるのが、イノシン酸。干し椎茸にあるのが、グアニル酸になります。
この核酸系のうま味は、グルタミン酸と合わさることで”相乗効果”が起き、体感としてうま味が跳ね上がるように感じられます。
有機酸系
うま味の章にもう一度登場するのが、コハク酸。
これは酸味の成分でもありつつ、”厚み”や”出汁っぽさ”に関係します。
貝類の出汁に納得がいく人は、多いはずです。
料理のコツ:
- うま味は足しすぎると”鈍く”なります。塩味・酸味の輪郭が不足すると、うま味がぼやけて”何味かわからない”状態になります。
- うま味の相乗効果を狙うなら、グルタミン酸と、イノシン酸またはグアニル酸を組み合わせるのが王道です。
辛味
辛味は、甘味や酸味のような味覚受容体との作用ではなく、痛覚・温度感覚の刺激として扱われます。
だからこそ、料理に入れる量で料理の個性が一気に変わります。
カプサイシン
唐辛子で有名な辛味成分の、カプサイシン。
舌が”熱い”と錯覚する刺激があり、脂に溶けやすい性質があるため、油の多い料理で辛さが広がり持続しやすくなります。
辛味の指標であるスコヴィル値は以下の通りです。
- ピーマン:0
- タバスコ:2,500-5,000
- 鷹の爪:30,000-50,000
- ハバネロ:100,000-350,000
- キャロライナ・リーパー:1,4000,000-2,2000,000
ピペリン
胡椒の辛味として知られるピペリンは、唐辛子とは違う”締まる辛さ”。
香りとセットで、肉料理を強く支えます。
アリルイソチアネート
わさび・からしに関わるアリルイソチアネートは、鼻に抜ける揮発性の刺激が強いタイプの辛味。
熱で飛びやすく、すりおろした直後が一番立ちます。
ジンゲオール
生姜の辛味成分として知られるジンゲオールは、体感として”温まる”印象を与えやすい刺激です。
煮込みやスープで、香りと一緒に立ち上がると満足感が増します。
料理のコツ:
- カプサイシンは油で伸びる、アリルイソチアネートは揮発する、という性質の違いを意識すると失敗が減ります。
- 辛味が強い料理ほど、酸味(酢酸やクエン酸)を少し足すと後味が軽くなります。
まとめ
本記事では、味覚成分(味覚分子)とは何か?、について紹介しました!
次にみなさんが料理をするとき、ほんの少しだけ「これは塩化ナトリウムの輪郭が足りないのか」「うま味はグルタミン酸だけで走っていないか」「酸味は酢酸のツンなのか、乳酸のまろさなのか」と考えてみてください。味が当たる確率が、驚くほど上がります。


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