今回は、様々な加熱温度によって起こる鶏肉への影響について、詳しく解説していきます!
鶏肉の安全性
鶏肉を生や加熱不十分な状態で食べると、細菌による食中毒のリスクがあります。
特にカンピロバクターは鶏肉で最も注意すべき細菌であり、実際に近年、生または加熱不足の鶏刺し・鶏たたき、焼鳥などが原因で多数の食中毒事例が発生しています。
また、サルモネラ菌も鶏卵や鶏肉から食中毒を起こす代表的な細菌です。
これらの病原菌は加熱によって死滅させることができますが、十分な温度と時間を確保する必要があります。
安全のための加熱基準として、農林水産省や厚生労働省は「鶏肉の中心部の温度を75℃以上で1分間以上保持する」ことを推奨しています。
中心部までしっかり加熱し、肉の中が生のピンク色ではなく白く不透明になることが目安とされています。
これはカンピロバクターやサルモネラ菌をはじめとする食中毒菌を確実に死滅させるための条件です。
実際、鶏肉内部を75℃で1分加熱すれば安全に食べられる一方、例えばより低い63℃の場合は内部温度が63℃に達してからさらに30分間の加熱維持が必要で、これによって同等の殺菌効果が得られます。
つまり高い温度ほど短時間で菌を死滅させられ、低めの温度でも長時間保持すれば菌を死滅させることができます。
カンピロバクターは比較的熱に弱く、約65℃で数分程度の加熱でもほぼ死滅するとされますが、安全のため家庭では確実に中心まで75℃以上に加熱することが重要です。
なお「新鮮な鶏肉だから生で食べても大丈夫」という誤解もありますが、生きた鶏がカンピロバクターを保菌している場合もあり、鮮度に関わらず生食は危険です。
したがって、家庭でも外食でも中心まで十分に加熱し、食中毒を予防することが大切です。
鶏肉の食感と加熱温度
加熱温度は鶏肉の食感(固さ・柔らかさ)やジューシーさ、風味に大きな影響を与えます。
加熱により筋肉中のタンパク質が変性し、水分が流出するため、温度が高くなりすぎると肉質が硬くぱさついてしまいます。
適切に加熱した肉は安全に食べられますが、火を通しすぎた肉は水分が飛んでパサパサになり、美味しくなくなってしまうことが知られています。
一方で、加熱を控えめにすれば肉は柔らかくジューシーになりますが、生焼けでは安全性に問題が生じます。
この安全と美味しさのトレードオフが、鶏肉調理の難しい点です。
加熱による見た目と食感の変化をもう少し詳しく見てみましょう。
生の鶏肉は赤みがかったピンク色で半透明ですが、加熱が進むと筋肉中のミオグロビンという色素タンパク質が変性して色が変化し、およそ60℃付近で肉の色はピンクから不透明な白色へと変わります。
この時点では筋繊維の一部が凝固して肉汁を保った状態であり、中心部まで火が通っていても比較的柔らかさと多汁性(ジューシーさ)が残っています。
一般に、肉の内部温度が低~中程度(60~65℃程度)で加熱が止まった鶏肉は、しっとりと柔らかい食感になります。
いわゆる「サラダチキン」(低温調理した鶏胸肉)のように中心温度を低めに保って加熱したものは、中まで火が通っていても固くなり過ぎず、しっとりジューシーに仕上がります。
しかし内部温度が66℃を超えるあたりから、水分の損失が急激に大きくなることが報告されています。
実験的なデータによれば、内部温度がおよそ66℃を超えると肉汁の流出量が劇的に増加し、加熱終点の温度が高いほど肉の水分が大幅に失われることが示されています。
つまり70℃以上の高温まで加熱された鶏肉では、筋繊維中の水分が絞り出されてしまい、食感が固くパサつく傾向が強くなります。
特に脂肪が少ない鶏むね肉は水分保持力が低いため、高温になりすぎるとパサパサで硬い仕上がりになりがちです。
一方、適度な加熱(中心が白くなる程度)にとどめジューシーさを保った鶏肉は、噛んだときに肉汁があふれるような柔らかな食感となり、満足度が高くなります。
加熱温度は風味(フレーバー)にも影響します。
高温で調理した場合、肉の表面でメイラード反応(アミノ酸と糖の反応)が起こり、香ばしい焼き色と風味が生まれます。
例えばグリルやフライパンで焼いた鶏肉の表面はこんがりと色づき、独特の香ばしい香りと旨味が出ます。
これは高温加熱のメリットで、適度な焦げ目は食欲をそそる風味を与えてくれます。
一方、低温で加熱した場合(湯煮や真空調理のみの場合)は表面に焼き色がつかないため、香ばしさは生まれず比較的マイルドな風味に仕上がります。
低温調理の鶏肉は素材本来の風味や調味液の香りは活きますが、焼いたときのような香ばしい風味が欲しい場合は、調理後に表面を軽く焼き付ける(いわゆる「焼き目だけ後付けする」)などの工夫が必要です。
高温調理と低温調理の比較
調理法として、高温で短時間に火を通す「焼く・揚げる」などの方法と、低温で長時間かけて加熱する「煮る・スロークック・真空低温調理」などの方法では、それぞれ利点と欠点があります。
ここでは高温調理と低温調理の違いを比較し、それぞれのメリット・デメリットを整理します。
高温調理(焼く・揚げる等)のメリット・デメリット
メリット
高温で調理する最大の利点は調理時間の短さです。
強火で焼いたり揚げたりすることで、鶏肉の表面から中心まで比較的短時間で温度を上げることができ、素早く調理が完了します。
高温調理中、肉の表面ではメイラード反応によるきつね色の焼き色と香ばしい風味が得られ、食欲をそそる旨味が生まれます。
また、揚げ物やローストでは表面がカリッとした食感になり、これも高温調理ならではの特徴です。
さらに、高温でしっかり加熱することで短時間で中心温度を安全域まで上げられるため、食中毒菌の殺菌を確実に行いやすいという利点もあります(調理ミスさえなければ、生焼けのリスクが低い)。
デメリット
高温調理の欠点は、肉が乾燥しやすいことです。
短時間とはいえ強い熱で表面から加熱するため、前述のように内部の水分が奪われやすく、特に加熱しすぎるとパサついた仕上がりになってしまいます。
また、火加減を誤ると表面だけ過度に焼けて中が生焼けになったり、逆に中心を火を通そうとすると表面が焦げすぎたりと、加熱ムラや過加熱のリスクがあります。
さらに栄養面では、焼いたり揚げたりする過程で流れ出た肉汁とともにビタミンやミネラルが失われたり、油で揚げることでカロリーが増えるといった側面もあります(詳細は後述)。
加えて、非常に高温で肉を焼いたり揚げたりすると、肉の焦げた部分に有害な化学物質(発がん性物質)が生成する可能性も指摘されています。
例えば250℃程度の乾燥した高温環境で長く加熱した肉では、ヘテロサイクリックアミン(HAA)や多環芳香族炭化水素(PAH)、終末糖化産物(AGE)といった有害な化合物が生成されることがあります。
これらは動物実験などで発がん性が示唆されている物質であり、高温調理の健康面でのデメリットと言えます。
したがって、グリルや揚げ物では焦げ付きに注意し、黒焦げになった部分は食べないようにすることが推奨されます。
低温調理(スロークック・真空調理等)のメリット・デメリット
メリット
低温で時間をかけて火を通す調理法の利点は、なんといっても仕上がりの肉質がしっとり柔らかいことです。
低めの温度(おおよそ60~70℃前後)でじっくり加熱すると、前述のように肉の水分流出が少なく抑えられるため、鶏肉が非常にジューシーに仕上がります。
真空パックして湯煎する「低温真空調理(いわゆるSous vide)」では、肉汁が袋内に閉じ込められ逃げないこともあり、驚くほどのやわらかさとジューシーさが実現できるとされています。
また、低温調理では肉を均一に加熱できるため、中心部まで狙った温度で火を通しつつ、周囲だけ硬くなってしまうといった失敗が起こりにくいです。
さらに、水や湯を使った調理では肉に焼き色がつかないため、先に述べたようなHAAやPAH等の有害物質がほとんど発生しないという健康上のメリットもあります。
栄養面でも、低温で加熱することでビタミン類の熱分解が抑えられたり、流出した栄養も調理液中に留まるため栄養損失が少ない傾向があります。
デメリット
低温調理の欠点としてまず挙げられるのは、調理に時間がかかることです。
加熱温度を低く設定すると、肉の中心までその温度に達するのに長い時間を要し、その温度を一定時間維持する必要もあるため、調理全体の時間が非常に長くなります。
家庭で低温調理を行う際には中心温度計などを用いて温度・時間を正確に管理する必要がありますが、実際には思っている以上に時間がかかる点に注意が必要です。
食品安全委員会の指摘によれば、低温調理では十分な殺菌のため想像以上に長時間の加熱維持が必要であり、例えば鶏胸肉(約300g)を63℃の湯で調理する場合、中心が63℃に達するまでに1時間以上かかり、さらに30分間保持するなど合計100分程度かかるとの報告もあります。
したがって手早く料理したい場合には不向きです。
また加熱不足のリスクにも要注意です。
近年インターネットや雑誌で「簡単」「時短」を売りにした低温調理レシピが流行していますが、中には中心温度の管理が不十分なものも散見されます。
例えば沸騰した湯に肉を入れて火を止め、蓋をしてそのまま余熱で放置するだけ…といった調理法では、中心部の温度が食中毒予防に十分な高さまで上がらない場合があると指摘されています。
食品安全委員会の専門家も「余熱を利用する自己流の低温調理レシピでは内部温度が不十分になりがちなので、やめた方がよい」と警鐘を鳴らしています。
このように低温調理は手間と管理が必要で、正しい手順を踏まないと安全性を損なうリスクがある点がデメリットです。
また低温調理単独では肉に焼き色がつかないため、仕上がりの見た目がやや寂しく風味も淡白になりがちです(必要に応じて調理後に焼き目を付ける手間が増える)。
以上を踏まえ、低温調理を行う際は信頼できるレシピに従い、温度計を用いて安全を確保することが大切です。
栄養価への影響
最後に、鶏肉の栄養価(特にタンパク質やビタミン)が加熱によってどのように変化するかを見てみます。
加熱調理は食材中の栄養成分に良い変化と悪い変化の両面をもたらします。
鶏肉の場合、主な栄養素であるタンパク質は加熱で性質が変わりますが量的損失はほぼなく、一方でビタミン類は加熱中の流出・分解によって減少しやすいです。
また調理法によって栄養の残り方も異なります。それぞれ順に説明します。
タンパク質(プロテイン)の変化
鶏肉のタンパク質は、加熱によって変性します。
具体的には筋繊維を構成するタンパク質(ミオシンやアクチンなど)が熱でほどけて再結合し、肉の硬さや見た目に変化を及ぼします(前述のとおり、生肉が加熱で不透明になるのもタンパク質変性の結果です)。
しかし、タンパク質の栄養価(アミノ酸組成)は加熱によって大きく損なわれません。
むしろ加熱によってタンパク質が変性すると消化酵素が作用しやすくなり、消化吸収率が向上するという利点もあります。
実際、調理された食品は生のものより消化が良くなり、多くの栄養素の吸収率が増加します。
鶏肉も適切に加熱することで消化が良くなり、タンパク質を効率よく摂取できるようになります。
ただし、あまりにも焦がすなど過度の加熱を行うとタンパク質と糖が反応して一部のアミノ酸が変性・減少する可能性はありますが、通常の範囲で調理する限りタンパク質量自体の損失は軽微です。
要するに、鶏肉のタンパク質は加熱調理によって変性しても量的・栄養学的価値はほとんど損なわれないと考えてよいでしょう 。
ビタミン・ミネラルなどの変化
一方、ビタミン類やその他の微量栄養素は加熱調理によって減少しやすい要素です。
特に水に溶けやすい水溶性ビタミン(ビタミンB群やビタミンC)は熱と水による喪失が大きく、油に溶ける脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)も高温で一部が分解されることがあります。
鶏肉はビタミンC含量はほとんどありませんが、ビタミンB群(例えばビタミンB1〈チアミン〉、B2〈リボフラビン〉、B3〈ナイアシン〉、B6〈ピリドキシン〉、B12〈コバラミン〉など)を含んでいます。
これらBビタミンは熱に弱く、水に流出しやすいため、調理中にかなりの割合が失われる可能性があります。
具体的には、肉を湯で煮たり茹でたりすると、煮汁と一緒に最大で約50~60%ものビタミンBが流出・分解して失われるとの報告があります。
例えばシチューや茹で鶏を作る際、煮汁を捨ててしまうとその中に溶け出したビタミンB群の半分以上を捨ててしまう計算になります。
このように加熱と水分によるビタミン損失は大きいですが、調理液ごと摂取すれば損失を大幅に補えます。
上記の茹で調理でも、スープや煮汁もすべて摂取すれば流出したビタミンB群の70~90%は回収でき、ミネラル類に至っては100%近く失わずに済むとの報告があります。
したがって、汁ごと食べる料理(スープや鍋など)はビタミン損失が少ないと言えます。
一方、グリル(焼き)調理の場合も注意が必要で、肉汁が滴り落ちる際にビタミンB群やミネラルが一緒に失われます。
グリルやオーブンで焼いた場合、流れ出た肉汁をソースなどで利用しないと、ビタミンB群やミネラルの約40%程度が失われるとのデータがあります。
揚げる場合も油中にビタミンが溶け出すことは少ないものの、高温で長時間加熱すると一部ビタミンが分解される可能性があります。
以上のように、ビタミン類は調理法と加熱条件によって損失量が大きく変わります。
茹でる・煮る調理では煮汁を有効活用する、焼く調理では滴り落ちた肉汁もソースにするなど工夫することで、ビタミンやミネラルの無駄を減らすことができます。
なお鶏肉に含まれるビタミンB群の中では、ビタミンB1やB6が特に熱に弱いとされています。
一方、鶏肉はビタミンAやEもごく微量含みますが、これら脂溶性ビタミンは水に流出しない代わりに加熱中の分解が多少進む程度です (肉の場合、脂溶性ビタミンの主要な損失要因は調理中のドリップに脂肪とともに流れ出ることです)。
ミネラル(鉄分や亜鉛など)については、加熱で分解することはなく量は基本的に変わりませんが、汁に溶け出して捨てられた場合に損失する点はビタミンと同様です。
総じて、低温・短時間の調理ほどビタミンの残存率は高く、逆に高温・長時間の調理ほど損失が大きい傾向があります。
そのため栄養面を重視する場合、必要以上の長時間加熱は避け、調理後の肉汁も活用することが望ましいでしょう。
まとめ
本記事では、加熱温度の変化による、鶏肉の状態への影響について紹介しました!
鶏肉の加熱温度は、安全性から食味、栄養価に至るまで多面的にその影響を及ぼします。
食品安全の観点では中心温度75℃・1分以上の加熱が推奨され、カンピロバクターやサルモネラ菌などを死滅させるために必要です。
一方で食感・風味の観点では、低すぎる温度では食中毒リスクが残り、高すぎる温度では水分が抜けてパサつくというジレンマがあり、ジューシーさと安全性を両立させるためには温度管理と加熱時間のバランスが重要です。
調理法としては、高温調理は香ばしさと時短に優れる反面、過加熱による品質低下や有害物質の発生に注意が必要であり、低温調理は卓越した肉質と栄養保持が得られる一方で手間と安全管理が求められます。
栄養面では、タンパク質は加熱で変性しても栄養価は保たれ、消化吸収は良くなりますが、ビタミン類は加熱により損失しやすいため調理法に工夫が必要です。
以上の知見から、鶏肉を調理する際は目的に応じて加熱温度と方法を選択することが重要だとわかります。
食中毒予防を最優先に十分に加熱することは大前提ですが、その上で過度の加熱を避けてジューシーさを保ち、さらに栄養の流出を抑える工夫をすることで、安全で美味しく栄養価の高い鶏肉料理を楽しむことができるでしょう。


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